「花火、しようよ」
唐突に言われた言葉に、佳子(かこ)は頷いた。
『夏の終わりに』
高3の、夏。
いつもならば嬉しい夏休みが、受験勉強のせいで素直に喜べない。
そんな休みも、今日で終わってしまう。
現金なもので、終わってしまうとなると、寂しく感じてしまうものである。
夏期講習のために通っていた予備校の廊下で、親友の未玖にばったり会い、
挨拶もそこそこに言われた先だっての言葉に、だから佳子は嬉しさを感じた。
その夜、池からはちょっと離れた川べりで二人はおちあった。
民家からは少し離れている為、明るいのは月ばかりである。
そんな中、マッチを擦って蝋燭に火をともし、二人は花火に火を移した。
急に、辺りが明るくなる。
二人は笑い、しゃべりながら、花火に興じた。
「夏ももう終わるね」
最後の花火に火をつけながら、佳子は言った。
ついでに、用済みの蝋燭の火を吹き消す。
「ほんと、早いね。もう明日から学校かぁ」
「来年の今頃は、どうしてるんだろ」
えー、と未玖はちょっと笑って。
「浪人してるかも」
「まさか、未玖に限ってそりゃないね」
「佳子だって大丈夫でしょ」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
でも。
大学に受かっているだとか、浪人しているだとか、
本当はそんなことを聞きたいわけではなかった。
――本当は。
もどかしさを覚えて、それでももう一度、佳子は口を開こうとした。
丁度その時。
花火が、消えた。
唐突に訪れた暗闇に、佳子は言葉をのんだ。
と、次の瞬間、自分の腕に、未玖の腕が触れたのを感じる。
「大丈夫、来年も一緒だよ」
囁くような、声。
一瞬身体に震えが走った。
ぎゅっと、すぐそばにある手のひらを握り締める。
「ありがと」
小さな声で、佳子は言った。
月明かりの薄暗い中、それでも次の瞬間、未玖の笑顔がはっきりと見えた。
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