『特別で』
「生まれてきてくれたことが嬉しい人が3人いるの」
唐突に、そう言った市子を、貴美はちらりと見た。
「突然ね」
飽きれたようにそう言いながら、貴美は、ふ、と口元を緩ませた。
「一人は、私ととっても良い、かな」
市子は、笑いながら頷いた。
「勿論、よ」
ふわりと貴美の頬に手を寄せる。
「お貴美がいてくれて本当に良かった」
そんな市子に、貴美はくすぐったそうに笑ってみせて。
「もう一人は……市子自身?」
推測を続ける。
「そ。私がいないと、こうしてお貴美と居れないから」
「あと一人は……?親、とか?」
「それを言い出すとキリが無いから、却下よ」
「そっか、先祖をずっと辿らなきゃだからね」
そう言って、貴美は虚空をにらむ。
しかし、数十秒の沈黙の後、息をついた。
「ヒント、ちょうだい」
ふふ、と市子は笑ってみせる。
「この人のおかげで私とお貴美は出会えた、という人」
貴美は首をかしげた。
「そんな人、いる……?」
「降参かな?」
貴美は頷いた。
市子は胸にかけた十字架にそっと触れて。
「イエス様」
囁くような声で、そう言った。
納得したように貴美は市子を見る。
「彼の人がいなかったら、こうして私たちがキリスト教の学校に通うことも無かったからか」
「そう」
市子は十字架をそのままぎゅっと握り締めた。
「だから、今日は特別な日」
そして貴美を見て微笑む。
「メリークリスマス、お貴美」
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