『声』
――おめでとう
年が明けた瞬間に来た笙子からのメールに、千鶴はクスリと笑みを零した。
几帳面なのが、笙子らしい。
――おめでとう。今何してるの?
千鶴は即座に返信をした。
――うん、本読んでた
――よく、メールを忘れなかったね
――千鶴のことなんだから忘れるわけないじゃない
多分、今笙子は笑っている。
千鶴はなぜかその姿をありありと思い浮かべることができた。
そして、ふと思う。
声が、聞きたい。
――ねぇ、電話して大丈夫?
――唐突ねぇ。大丈夫だよ
その返事を見るや否や、千鶴は電話をかけた。
すぐに、耳元で笙子の声がする。
「千鶴?」
「うん。笙子、だ」
「当たり前でしょ。何言ってるの」
そう言って笙子は笑い声を上げた。
千鶴の耳に、ひどく心地よく響く笑い声。
「急にさ、笙子の声が聞きたくなったんだ」
「私もちづの声、聞けて嬉しい」
その言葉がくすぐったくて、千鶴は笑った。
「どうしたの、急に笑って。変なこと言った?」
「いや、何でもない。ちょっとね、嬉しかったから」
「さっきからちづ、変だよ」
そう言って笙子も又笑う。
「笑う門には福来るだよ」
千鶴は笑いながら返した。
「じゃ、きっと私たち、今年は良い年になるね」
「当たり前じゃん」
また、二人して声を立てて笑いあった。
と。
「ね」
次の瞬間、急に優しい声色で笙子が言った。
「何?」
千鶴は問い返す。
「今年もよろしくね、ちづ」
笑いながら、うん、と千鶴は言った。
「こちらこそ、よろしく。笙子」
今年が二人にとってまた、よき年になりますように。
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