「明けましておめでとう」
「明けましておめでとう」
そう、挨拶をしたのは予備校の廊下だった。
『神頼みしたいのは』
多香子と知り合ったのは、予備校に入ってすぐ。
大学に落ちて落ち込んでいた時期。
隣の席で、そんな私よりも更に落ち込んでいたのが多香子だった。
考えてみれば、一年も経ってはいない、短い付き合い。
「もう、年が明けちゃったね。どうしよ」
多香子はそういって、不安そうな顔をする。
ともすれば、泣き出しそうな、顔。
それは、多香子が良く見せる表情だった。
私はそれを見て、はは、と笑って。
「多香子は大丈夫だよー、きっと」
励ますように、そう言う。強く。
不安で泣きたいには、私も、一緒。
只、理由が違うだけで。
「ほら、この間の模試でもA判定もらってだでしょ」
「そうだけど・・・美奈は不安じゃない?」
「そりゃ、不安だけどさ」
私が、不安で泣きたいのは、貴女と私が離れてしまうこと。
第一志望の大学は、お互い遠く離れた県だから。
貴女は失敗を恐れているけれど。
私は成功を恐れて、いる。何よりも。
「でも、大丈夫って信じなきゃ、やってられないよ。恐くて」
ね、と私は多香子に笑いかける。
「美奈はやっぱり強いね」
そう言って、やっと多香子は笑った。
だって。
ともすれば貴女の失敗を願ってしまいそうな心を、
必死で抑えなくちゃいけないんだから。
強く、いましめなければいけないんだから。
だから私は、必死で貴女の成功を祈る。全身全霊で。
多香子ならば大丈夫と、強く言い切る。
「さ、お正月気分なんてなしだよ。勉強、がんばろ」
私はそういって、多香子に笑いかける。
「おう」
多香子も笑って、答えた。
神様。
離れ離れになる時に、多香子いつもの泣きそうな表情をしてくれれば、
私はそれで満足なんです。否、満足するんです。
どうか、私たちが、第一志望の大学に行けますように。
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明けましておめでとう御座います。
今年も、大正少女と涼子を、よろしくお願い致します。
お正月と言うのに、暗くて御免なさい。
もし気に入ってくださったら、持って帰ってもらって構いませんのでー。
2007.1.2 涼子拝
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