『夕闇』
夕暮れ。
朱色の光が差し込む薄暗い教室に、少女たちは二人、残っていた。
静まり返った学校に、彼女たちの話し声が、そして時折、クスクスと笑う声が響く。
「笙子って、髪の毛綺麗よねぇ」
少女の一人……笙子の、真っ黒の艶のある髪を櫛でそっと梳かしながら、
もう一人の少女、千鶴は言った。
どうしたの急に、と笙子はクスクス笑う。
さらさらと、櫛を通った髪は緩やかな線を描いて、白い制服へと落ちていく。
二人が沈黙したので、その音のみが、暫く教室に響いた。
と、唐突に。
笙子は上を向いた。
そして千鶴の髪の毛を、くるくると手にとって。
「ちづだって、綺麗な髪してるじゃない」
そう言い、微笑を浮かべた。
「ありがと」
千鶴も、そう言って笙子に微笑み返す。
「さ、前向いて。髪の毛梳けないでしょ」
千鶴の言葉に、ん、と大人しく、又笙子は前を向いた。
そして、そのまま、千鶴の方は見ずに、言う。
「ねぇ、ちづ」
何?、と髪を梳きながら、千鶴は優しく問い返した。
「大好きだよ」
一瞬の沈黙の後、千鶴はうん、と言ってちょっと笑って。
「私もだよ」
まるで秘密を告白するかのように、囁いた。
そして、カタン、と櫛を置く。
「さ、帰ろうか」
鞄を掴みながら言う千鶴に、笙子も頷いて鞄を手にとった。
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