香夏子は、よく指を絡めてくる。
『絡めた指の理由』
「ねぇ、香夏子ー」
絵里は机の上の自分の手を見ながら口をひらいた。
その手の指には、いつのまにか香夏子の指が絡められている。
「香夏子ってさ、どうしてそう指を絡めたがるの?」
例えば。
帰り道などで指を絡めるのは、わかるだろう。
しかし、昼休みの教室で、向かい合って喋っている時にまで指を絡めるとなると、
絵里が流石に不可解に思うのも、無理はない。
えー、と言いながら香夏子は笑う。
「絵里ちゃんはさ、嫌なの?」
予想外の切り返しに、絵里は一瞬言葉に詰まった。
そして、嫌ってわけじゃないけど、としどろもどろ口にする。
ならいいじゃん、と香夏子は又笑って。
初めの質問の答えを言った。
「こうやって指を絡めておけば、絵里ちゃんは逃げれないでしょ」
また絵里は言葉に詰まった。
と、いうよりむしろ、香夏子が言った言葉がよく理解できなかったのかもしれない。
ふふっ、と香夏子はそんな絵里を見て笑う。
「冗談だよ」
丁度、その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃ、又ね」
香夏子はそういって、するりと指をほどき、自分の席へと戻っていく。
そんな後姿を見送りながら、香夏子は結局理由が聞けていないことに思い当たった。
ま、いっか。
まだ香夏子の温もりが残った手を、絵里は眺め、誰にともなく微笑んだ。
嫌、じゃないんだし。
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