『微熱』
朝起きて、沙希は自分が軽く熱っぽいことに気づいた。
いつもなら、微熱程度でも念のため寝て体を休めるのだが、
今日は親友の里香とショッピングに行く日である。
……この位なら、大丈夫。
沙希は気にせず、家を出ることにした。
いつも通り、先に待ち合わせ場所についたのは沙希だった。
里香はいつも、少し遅れてやってくる。
そして今日も、里香は5分ほど遅れてやってきた。
「御免ね」
着くなり里香は顔の前で両手をあわせて謝った。
「別にいいよ、たった5分だし」
沙希はそう言って笑う。
いつもならそんな沙希に、里香は笑い返すのだったが、
何を思ったのか、里香はニコリともせずに、じっと沙希を見つめた。
そんな里香の様子に不安を覚え、どうかした?と沙希は問うた。
「顔色が悪い」
里香は一言、そう答える。
そして。
そっと、沙希の頬に腕を伸ばした。
ひやりとした感触と、突然の里香の行動に、沙希は身をこわばらせた。
微かに心拍数があがったことを、自覚する。
「だい、じょうぶ」
気づけば、無意識のうちにそう言っていた。
本当に?と里香は心配そうに沙希の顔を覗き込む。
沙希は、ん、と言って少し笑って見せた。
微熱と言っても、体がだるいわけではない。
寝込んでいるよりも、里香と過ごす方が良いにきまっている。
気分は、嘘ではなく、ひどく良かった。
|